第2回乾癬市民公開講座ハイライト

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左:司会 笹岡樹里さん 中央:聖母病院 皮膚科 部長 小林里実先生 右:筑波大学附属病院 看護部 梅津努さん

6月14日に「乾癬どんなことを意識していますか?」というテーマのもと、Webで参加する第2回乾癬市民公開講座を実施しました。講座では、乾癬の重大な合併症である骨の病気の発症や進行を防ぐためのポイントを、専門医の小林先生が解説。また乾癬を適切にケアすることの重要性について、皮膚科の看護師でもあり乾癬患者さんでもある梅津さんからお話いただきました。

講演に参加できなかった方、講演の内容をもう一度振り返りたい方のために、この第2回乾癬市民公開講座のハイライトを記事でお届けします。

「“関節症性乾癬”知ってますか?-今日からできるセルフチェック- 」
小林 里実先生 聖母病院 皮膚科 部長

乾癬は皮膚だけの疾患ではない

乾癬は皮膚だけの病気ではなく、全身疾患であるということをまず知っていただきたいです。

眼の中に起こる炎症や、糖尿病、高血症、そして、乾癬の症状がひどい方では虚血性心疾患(心筋梗塞)などの病気が発症するリスクがありますが、今回の講演では「乾癬性関節炎(または関節症性乾癬)についてお話したいと思います。

乾癬性関節炎とはどのような症状?

皮膚症状に加えて、関節に腫れや痛みが現れる場合は乾癬性関節炎が疑われます。

乾癬性関節炎の主な症状

    • 末梢関節炎(まっしょうかんせつえん)
      手足の指には、爪に近い第一関節から発症します。腫れや痛みを伴い、関節の破壊が起こり、変形をきたします。「ヘバーデン結節」という、指の使い過ぎから起こる第一関節の変形とよく似ているため、X線やMRIなどの画像を使った識別診断が大切です。
    • 非対称性関節炎(ひたいしょうせいかんせつえん)
      末梢関節炎にはもうひとつ、分布にも特徴があります。左右対称に横に並んで関節に炎症が起こる「関節リウマチ」と違い、指の第一関節、第二関節、付け根など同じ指の複数の関節に炎症が起こるので「線状分布」といいます。
    • 指趾炎(ししえん)
      指が全体的にソーセージのように膨れて、浮腫んで(むくんで)見えるものです。初期には骨の変化はありませんが、長く続くと関節破壊をきたすこともあります。
    • 付着部炎(ふちゃくぶえん)
      付着部という、骨に腱(けん)、靭帯(じんたい)がくっついている部分から炎症が起こります。
      朝起きた時に、アキレス腱や足の裏に痛みを感じるときは、すぐ主治医の先生に相談してください。皮膚症状と同じで、刺激が加わるところにおきやすく、荷重がかかりやすいアキレス腱などは、よく侵される場所です。
    • 脊椎関節炎(せきついかんせつえん)
      朝起きるときに背中が痛い、腰が痛い、寝返りをしていると痛くて目が覚める、などの症状が出た場合、主治医の先生に相談してください。初期でも脂肪信号を抑えたMRIを撮ると炎症がわかります。またX線でみると、骨の変形や、骨化という症状が見られたりします。
    • 仙腸関節炎(せんちょうかんせつえん)
      腰に痛みが生じるもののなかに、「仙腸関節炎」というものがあります。これは腰骨が組み合わる境目に炎症が起こって、骨が変形してギザギザになったり、骨が硬くなったりする炎症です。炎症が強いと歩行が困難になることもあります。
    • ムチランス型
      関節炎の特殊なものとして骨が溶けるタイプがあります。これを「ムチランス型」といいます。あるはずの骨が溶け、オペラグラスのように指があちこちを向いたり、短くなったりします。

なぜ、早期診断、早期治療が重要?

関節症性乾癬は進行性です。ゆっくり進行する場合もあれば、急に進行する症例もあります。発症初期は2~3個の関節で始まりますが、10~20年経つうちに、炎症が出る関節が増えていき、そして脊椎にも炎症が起きることがわかっています。

関節は一度壊れてしまうと元に戻りません。治療の開始が6ヶ月遅れると、骨が変化してくることがわかっています。症状が進んでから治療を開始すると、症状が改善するスピードが遅くなり、治療をなかなかやめられなくなります。

今、関節症状がないからといって、乾癬性関節炎にならないとは限りません。乾癬は、皮膚症状が先行するのが約6割といわれていて、その後に関節炎が発症する方が多くいます。少しの変化や違和感でも、主治医に症状を伝えていただくことが早期発見につながります。

今日からできるセルフチェックをしよう

乾癬性関節炎の症状を知っておこう

特徴的な症状を知っておき「あれ?これって、関節炎かしら?」と疑えることが大切です。主治医に相談していただいて、どのくらいのスピードで進行するのかを把握して、治療法や生活上で注意すべきことを話し合いましょう。

皮膚でいう「ディープケブネル現象」のように関節でも負担がかかるところに炎症が起こりやすいため注意が必要です。まずは痛みの特徴を知っておきましょう。

痛みの特徴

1. 朝起きた時に感じる痛みはありますか?

朝起きるときに痛む、寝ている時に痛くて目が覚める、しばらく安静にしていて動いたときに痛む場合は「炎症性疼痛」の疑いがあります。動き出すと痛みが和らぎ、忘れてしまうため、痛みの特徴と場所を覚えて主治医に伝えていただくことが大切です。

2. 自然に始まり、続く痛みはありますか?

自然に始まって続く痛みです。重い荷物をもったときに腰が痛くなる「ぎっくり腰」などとは違い、炎症の痛みはきっかけがない痛みで、続いていたら要注意です。一回の検査ではわからないこともあるため、すぐ「これは違う」と決めつけないことが大切です。

3. 骨の端っこに押すと痛いところはありますか?

「圧痛点」というのがありますので、骨の端っこを押してみて痛くないか試してください。これは、末梢関節炎、付着部炎を見つける手段です。

4. 前屈をすると痛みを感じますか?

前に両手を伸ばして前屈をしてみてください。途中で痛くて曲げられない場合は、脊椎関節炎の可能性があります。

5. 座るときのおしりの痛み、アキレス腱や足の裏に痛みはありますか?

座るとき、どちらか片方が痛いときは、仙腸関節炎かもしれません。そしてアキレス腱や足の裏に痛みがないか、注意してください。付着部炎かもしれません。

6. 指が太くなっていませんか?

指がソーセージのように太くなっていないか、腫れていないかチェックしてください。指趾炎の疑いがあります。

7. 爪に変形がありますか?

爪と関節症状というのは相関します。爪にしか症状がでていない方でも、実は関節炎も発症していたという方もいらっしゃるため、爪に変化がないかもチェックしてください。

今は医療が進歩し、乾癬であることを忘れて過ごすこともできるくらいによくなる可能性があります。乾癬性関節炎にも、進行を止める治療法があります。

患者さん皆さんご自身で関節炎症状の知識をもっていただき、あまり遠慮せずにぜひ主治医に伝えてください。早期発見と的確な治療で関節の変形を防いでいきましょう。

「あの日に戻って、もう一度乾癬と向き合えるなら-医療者として、患者として- 」
梅津 努さん 筑波大学附属病院 看護部

医療従事者でありながら、一乾癬患者である梅津さんは、彼自身の体験と、その体験を通じての乾癬治療における学びを語ってくれました。様々なお話がありましたが、まとめて特に伝えたい7つのメッセージをここで紹介します。

1. まず大事なのが、早期の確定診断。私は乾癬と確定診断するまでに5年かかりました。最初は腕に2、3点赤い皮疹のようなものが現れました。近所の診療医に処方してもらったステロイドの薬を塗っていたのですが、だんだん全身に皮疹が広がってきて、全身になったところでようやく皮膚科専門医にかかって乾癬と診断をされました。早く専門の医療機関を受診し、乾癬の診断を受け、適切な治療をしていくことが非常に大切です。

2. 乾癬治療というのは一生のもので、手間・時間がかかります。私の場合、ステロイドやビタミンD3といった外用薬を塗っていましたが、面倒である、塗り心地が悪い、衣服にうつるといった自身の勝手なわがままからしっかりと1日2回塗り続けることを継続できませんでした。しかし私の場合、しっかりと用法・容量を守って薬を使用していなかったことが乾癬の症状を悪化させる一因になったと考えます。治用法・容量を遵守して薬を使用することは非常に重要です。

3. 乾癬というのは、皮疹が悪化することで、痒みを帯び、見た目が悪くなります。他人の目が気になり社会生活におけるストレスも大きくなります。そのストレスにより、さらに皮疹を悪化させるエンドレスループを形成します。ですから、治療の際は皮疹を良くすることをまず念頭において治療してください。皮疹を悪くしないということが非常に重要になります。

4. 乾癬はいろいろな要因が複雑に絡み合って発症します。ですから1つでもその要因が良くなると乾癬が軽くなる可能性があります。ただし、民間療法や代替療法には注意が必要です。費用が予想以上に高額になることもあります。しかし、それらはエビデンス(科学的根拠)のある治療ではないことが多く、その効果は未知数です。エビデンスのある治療を行う医療機関での治療を優先し、常識的な範囲での使用を心がけてください。

5. 皆さんが今、かかられている主治医が必ずしも乾癬治療の経験を多く有しているとは限りませんし、乾癬がなかなか良くならないのは現在で一番適切な治療を提供されていないかも知れません。私の場合、乾癬の治療について色々と自分で調べた上で、主治医の先生に相談して、治療をうまくステップアップしていった経験があります。乾癬の治療は受動的な姿勢ではなく正しい知識を積極的に身につけ、主治医と十分に話し合って治療計画を立ててゆくことが非常に大切になります。また、長くかかっている先生だから他院紹介をしてもらうことが心苦しいと思ってらっしゃる方もいると思いますが、大きな医療施設ではないと受けられない治療もあります。今は病診連携の考え方が浸透しており紹介制度を拒む医師はいません。

6. 乾癬治療のゴールは個人それぞれで違うということを認識してください。私の場合は皮膚が綺麗になってくれることが望みで、治療費はある程度かかってもいいと考えています。ただし人によっては、ある程度皮疹が残っても治療費を抑えたい、と考える方もいらっしゃるでしょう。皮疹のレベルと治療費、生活環境のバランスを考え、主治医の先生と話し合っていただき、ご自身に一番適切した治療を選ぶことが重要なことだと思います。

最後に、現在では生物学的製剤を含めた新薬の開発も進み、良い薬が出てきて選択肢が広がっています。しかし、現在も治療が上手くいっていない患者さんもいると思います。私の場合、「思いつく治療は全ておこなってしまって、もはや希望はないのではないか」と思うことがありました。しかし、今このように綺麗な肌で皆さんの前でお話することができております。今後も新たな薬が色々と研究開発されていきます。ですから皆さん、「いつか自分の皮膚が綺麗になるように」そういった希望を諦めないで、乾癬に対する治療の情報収集を貪欲に行っていただきたいと思います。

 

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