仕事と身体のバランスを考える

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work-psoriasis-balance奥瀬正紀さん(神奈川乾癬友の会)

出張中に気づいた 背中の丸い発疹

私の乾癬が発症したのは10年ほど前のこと。出張中に宿泊先のホテルで風呂に入った時、肩甲骨のあたりに違和感を覚え、鏡に映してみると500円大の赤い発疹があったのです。もともと湿疹などができやすい体質だったので、「そのうち消えるだろう」と、気にもせず放っておきました。ところが、少しすると発疹は足のスネやくるぶしにも出るようになり、痒みもありましたので市販の薬を塗っていたのですが、やがて発疹が背中全体に広がって痒みでどうしようもなくなったので、近所の皮膚科を受診しました。仕事の忙しさといつかは消えるだろうという甘い考えで、発疹に気づいてからすでに2年ほどが過ぎていました。先生は私のポロポロと剥けるような皮膚を見て「これは乾癬ですね」とすぐに診断されました。 その時に先生から言われた、「この病気は完全には治らない一生つき合っていく病気ですよ」という言葉に、大きなショックを受けたのを今でも覚えています。そして、今は背中だけの症状が、顔や手など見えるところにまで広がっていったら、仕事は続けられるのだろうかという不安も押し寄せてきました。

仕事の忙しさで 治療が軌道にのらず…

しばらくはその近医に通っていましたが、やがて紅斑が体中に出ている状態になったため、大学病院へ紹介されることになりました。 大学病院での最初の治療は外用薬と紫外線療法を勧められ、「毎週、紫外線を照射する必要がある」と先生に言われました。しかし、実際には仕事の都合で月に1回の照射しかできず、症状はあまり改善しませんでした。その上、忙しい仕事の負担からか症状は時々悪化して、自分の中に言葉では言い表せないもどかしさがありました。治療のためにもっと時間を割ければ症状は良くなると頭では分かっていても、乾癬の治療のために仕事をそんなに休めないという現実がいつもあったのです。 治療しているのに良くならない状況に落ち込むこともありましたが、長く治療をしていく中で、「家族もいて、毎日の生活もあり、生きていくために仕事は絶対に続けなければならないもの、そして、乾癬もまた一生私の体にあるもの」、この二つにどう上手く折り合いをつけていくかが大切だと考えるようになりました。

症状を職場で 気にしないための工夫

痒みで時々気が散ることはありましたが、乾癬が原因で直接仕事に支障が出ることはほとんどなかったと思います。しかし、職場の同僚や関係先の人の目が気になることがあり、いろいろ工夫しました。例えば、頭や顔に症状が出ると、剥け落ちた皮膚がフケの様に肩についてしまいます。ダークスーツを着ているとフケが肩に溜まっているように見えるので、色の薄いスーツを選ぶようにしました。また、スーツだと黒い靴を履くことが多いのですが、靴にも落屑がついて汚れることが多かったので、スーツに合う薄い色の靴を探したり、定期的にトイレなど人目につかないところで払うようにしました。あと、ビジネス用の手提げ鞄は腕に乾癬が出ている時は、落屑で鞄が汚れるためリュックサックに変えました。こうやって服装などを少し工夫すれば人目を気にすることが減るので、その分、他のことに気を使えるようになり、仕事にも集中しやすくなると思いました。 職場では、同僚と健康の話題などについて話しているタイミングなどを上手く利用して、自分が乾癬という病気であることを伝えています。乾癬という病気があまり知られていないので、病気の大変さを理解してもらうのは難しいですが、私は、「乾癬で爪がボロボロになっているから、名刺交換の時に恥ずかしい思いをするんだよ」と、ビジネスマンならだれでも遭遇したことのある状況で、乾癬があるとどう困るのかを話すようにしています。そうすると、仲間も大変さを想像でき、病気を理解してもらいやすいように感じます。

治療の日は、 リラックスする日

最近は、月に1回、病院へ行くために会社を休む日を「リラックスする日」と考える余裕も持てるようになってきました。今、こんな風に考えられるのは、乾癬の治療をあきらめずに続けてきて、「この病気は良い時も、悪い時もある」ということを理解できるようになれたからだと思います。温泉に行きたい、仕事帰りに仲間と一杯飲みに行きたい、限られた自分の時間の中でやりたいことはたくさんあります。だから、乾癬の波を上手に利用して、やりたいことは調子の良い時にやればいいと考えるようにしています。逆に調子の悪い時は、無理してあれこれやろうと思わずに、それは体から出ているシグナルだと思って、家でゆっくり過ごすような、乾癬とのつき合い方が身に付いてきました。 乾癬の治療を始めた頃は調子が悪くなると、「なぜ上手くいかないのか?」と自分の状況を悲観していたのですが、長く乾癬とつき合ってきた今では、仕事もこうやって続けられ、治療もできている、この両方がある今に感謝する気持ちも持てるようになってきました。

これからも、 自分のペースで

乾癬があるからこれができない、乾癬が治ったらこれがしたい、乾癬を中心に自分の人生を考えることは今までもなかったですし、これからもそう生きていきたいと思っています。 また、「仕事をしているから治療が続けられ、治療を続けているから良い状態を維持できる」、この良いサイクルはこれからも守り続けていきたいと思っています。そして、仕事を続けていければ、自分一人の世界にこもらず、いつも多くの人々とのつながりを持ち続けられるということも、とても大切に感じています。

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