[7/27]第3回乾癬市民公開講座ハイライト-②

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7月27日に「乾癬とメタボリックシンドロームの関係」をテーマのもと、Webで参加する第3回乾癬市民公開講座を実施しました。後半の講演では、乾癬を改善させるための運動療法について、東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科の天川先生にお話いただきました。講演に参加できなかった方、講演の内容をもう一度振り返りたい方のために、講演のハイライトを記事でお届けします。

前半の講演「メタボは乾癬の大敵!? −あなたの日常生活、いかがですか?−」のハイライトはこちらから。

左:司会 笹岡樹里さん 中央:筑波大学医学医療系 皮膚科 渡辺 玲先生  右:東京医科大学八王子医療センターの糖尿病・内分泌・代謝内科 運動療法担当 天川 淑宏 先生

「これならできる運動療法~動きたくなるココロと動けるカラダ~」
天川 淑宏 先生
東京医科大学八王子医療センターの糖尿病・内分泌・代謝内科 運動療法担当

カラダの構成と「糖」の仕組み

ヒトの身体を動かす筋肉は、体重のどれくらいを占めると思われますか?測った体重の中には骨も内蔵も水分なども含まれますが、ヒトの身体を支えたり動かしたりする筋肉は、なんと体重の約50%近くもあるのです。

車が走るときにはエネルギーとしてガソリンが必要です。同じように筋肉も動くときにはエネルギーが必要であり、その主なエネルギーは、「糖」と「脂肪」です。また、このエネルギーは食事から得られる正に栄養です。

<糖の流れ>

食事から摂られた主に御飯などの炭水化物は、食道を通って胃で消化され、十二指腸で分解され糖となった栄養は吸収され門脈の通路を流れて肝臓に向かいます。その肝臓には、すい臓から分泌されたインスリンによって一旦貯蔵され、その後に糖は肝静脈から心臓のポンプを経て身体の血液中に「血糖」となって放出されます。したがって、食事から30分間程かけて血糖値が上昇します。

「インスリン」の働きとは?

糖の流れでお話したように、まずインスリンは肝臓に糖を貯蔵したり放出したりする内因性の働きと、糖を筋肉のエネルギーとして貯蔵させたり、脂肪へ蓄積させてりする働きを促す(助ける)働きをしています。(糖が脳のエネルギーとして使うことには、インスリンは関与 していません)

図にみられるように「糖」の取り込みで多くのエネルギーとして活用するのが筋肉です。但し運動などで筋肉が糖を使い過ぎて脳の働きに影響しないようにするため、筋肉は内臓に蓄積されている脂肪もエネルギーとして使うのです。 

運動不足とは

運動不足とは、「足」を使って自分の身体を「動」かしたり「運」んだり「不」しない、ということの意味も含まれた4文字とも言えます。例えば、お家にある便利なリモコン。一番使うのはテレビでしょう。このリモコンが手元にあれば足を動かさずにチャンネルを変えることも音量調節も出来ます。しかし、昔はチャンネルを廻すために足を動かして歩んでいました。

私たちは便利な環境の中にいると無意識のうちに筋肉を動かさなくなります。そうすると、食事で摂った糖や脂肪は筋肉でエネルギーとして使わなくなり、その分血液中に留まることになります。すると糖が多く血液に残るとベトベトした状態の高血糖となり、脂肪が多く血液に残るとドロドロした脂質異常になり、それが血管を傷めます。また、脂肪が過剰となり肝臓に蓄積すると脂肪肝なり、更にそれが筋肉にも及んでしまうと「脂肪筋」へと変化してしまいます。このような異所性脂肪は、糖尿病へと助長したり、全身に毒素を放出したりします。

 

 

身体活動 -生活活動(NEAT)と運動の組み合わせ-

1日当たりの総エネルギー消費量は、基礎代謝量(約60%)、食事誘発性熱産生(約10%)、身体活動量(約30%)の3つで構成されています。そのうち基礎代謝量は体格に関係し、食事誘発性熱産生は食事摂取量によるので個人内での変動は大きくありません。総エネルギー消費量が多いか少ないかは、身体活動量によって決まり、その身体活動には、生活の中での動き(生活活動)と運動の2つ構成されています。この2つのうち、目的を持って行なう運動以外の生活活動をNEAT(非運動性熱産生)といいます。NEATには、普段の生活の中で歩行、階段昇降、家事などで身体を動かすこと。「運動」とは、ウォーキング、ジョギング、水泳、ヨガなどで意図的に身体を動かすことを示します。ここで注目すべきはNEAT(生活活動)であり、電化や機械化された便利な生活環境によって身体を動かすことが少なくなってきていることです。

 

日常生活で動くことを意識することは実はとても重要です。アメリカの研究では、実際に座っている時間の長さで、エネルギーの消費がどのくらい違うか比較したものがあります。

座位活動が、立ったり歩行したりする時間より長いと、1日当たり約354キロカロリーもエネルギー消費の差があることがわかりました。

  

肥満を助長するのは、「食べ過ぎ」ではなく「運動不足」

このグラフは「食べ過ぎたときの脂肪増加量の割合(1~5)」を3種類の消費能力に分けたものになります。「基礎代謝」と「食事熱産生」はあまり変わりがないことがわかります。

食事を食べた時の量よりも大きく関係するのは、1日の生活の中で動かない状態で、その状態が肥満を助長させるということがわかってきました。つまり、食べ過ぎももちろん大きな要素ですが、日常生活の中で運動量が少ないと「食生活」とのバランスが崩れ、肥満を助長している傾向があります。

  

乾癬の改善のミカタ「善玉活性物質:マイオサイトカイン」

動かない生活で且つ食事バランスが崩れると内臓に脂肪が蓄積され、その脂肪から「アディポサイトカイン」という生理活性物質が出てきます。これが悪玉の脂肪となり身体に炎症を引き起こす要因となるのです。一方で、運動をすることで筋肉に刺激を与えると、今度は「マイオサイトカイン(以下マイオカイン)」という善玉の生理活性物質が出てきます。これは例えば、筋力運動やウォーキング、自転車こぎなどでも増えていきます。

 

習慣的に運動を行うと筋肉から出る「マイオカイン」に対する身体の感受性が高まり、善玉として身体に良いことを与えてくれます。例えば:

  • 適度な食事量で満腹感をきちんと味わえる身体になる
  • 慢性的な関節の痛みを和らげてくれる

そして、マイオカインは脂肪を燃やす着火剤のような働きを担って脂肪の悪玉を減らし「乾癬の改善のミカタ」をしてくれるということもわかっています。

 

適切な運動

運動をするというのは、頑張って辛く激しい運動をするのではなく、いかに「意識して動く」ことが大切だということをわかっていただけたと思います。ではどんな運動が良いのでしょうか?

まずは、座りっぱなしにならないように意識して身体を”ちょこまか”動かしNEATを増やす「ちょこまか運動」。そして、マイオカインが出るような適度な刺激を筋肉に与える「しっかり運動」。この2つが大切です。

「ちょこまか運動」をやってみよう

 座りっぱなしにならないように30分に1回は椅子から立ち上がるような動作を行いましょう。1日24時間のうち、8時間睡眠としたら残り16時間は起きている。したがって、1日に32回は最低立ったり座ったりしないとNEATが増えません。

  1. 1時間に1回は立ったらその後3分間は動きましょう。トイレに行くのも、お茶をくみに行くのもOKです。でも一服とタバコを吸いに行くのはNGです。
  2. 3時間に1回は筋肉を伸ばし(ストレッチング)ストレス解消と血行を促す。
  3.  NEATだけでも歩数計は6,000歩を達成できる目標を持つ。これは、歩数計を朝起きてから寝るまで装着しての歩数を図ってみましょう。最近は携帯電話にも歩数計機能がついています。30分に1回は3分歩くだけでも、4,800歩。例えば12分間、外で散歩するだけでも1,320歩。これを合計すればすぐ6,000歩達成できます。

  

「しっかり運動」もトライしてみよう

マイオカインを増やす運動には、「有酸素運動」「ストレッチ」「筋肉運動(レジスタンス運動)」があります。実は有酸素運動は、長時間ゆっくり歩いた場合、筋肉はエネルギーをゆっくり少しずつ使うため運動を行っていない時間は、食事を曖昧にしてしまうと脂肪をため込んでしまい逆効果なのです。したがって、短時間でも「意識してしっかり動く」ことは筋肉がエネルギーを使うタイプになっていきNEATのような動きでも脂肪を燃やし易くなったり、基礎代謝も高まるので減量にも効果的です。

 

下の表は、私たちが実際に医療センターで使っている適切な歩数を表したものです。有酸素運動をする場合、毎分116歩のリズムで1回3分間以上を目安に1日合計20分間になるようにまずはトライしてみましょう。徐々に1回の時間を延ばして10分間くらいを続けるようになるとマイオカインをたくさん増やすことができます。また、徐々に行なことで膝などへの負担も掛かりすぎずに行なえます。

  

「レジスタンス」と「ストレッチング」で動ける身体づくりをしよう

しっかり歩くためにはいろんな筋肉が必要です。筋肉が動きやすい状態をつくる、「レジスタンス運動」をいくつか紹介します。

椅子を使ったレジスタンス運動:

  1. 椅子に座り、背もたれから背を離し、膝を曲げたまま、一方の脚を持ち上げ太もも裏が座面から離れたら5秒間キープ。左右交互に3回行ないます。徐々に慣れて筋力が付いてきたら5回へ、また、8秒、10秒と延長しても良いでしょう。
  2. 椅子(机でもよい)の後に立って、背もたれにつかまり、両足での爪先立ち(踵上げ)になって、5秒間キープしその後ゆっくり下ろす5回。徐々に慣れ筋力が付いてきたら10回まで回数を増やしましょう。
  3. 2を片脚で行なう。一方の脚の膝を曲げ、足底を離床または爪先を床に着けた姿勢から、片方の脚で踵上げ下ろしをリズミカルに、1セット10回、左右交互に1~2セット、
  4. 2と同様な踵上げ運動を、両膝を曲げた姿勢から行います。回数は同様です。
  5. フラミンゴ療法という片脚立ちで1分間キープする運動。この運動では必ず片手を安定な物に添えて、同側の脚を離床して行なう。(手を添えずグラグラした状態では運動効果は望めません)。この1分間は、歩行を53分間行ったと同様な力積量が軸脚に加わり、特に大腿骨への強化が図れます。

   

 夜寝る前に布団の上でできる運動もあります。写真のように、横になり両膝を曲げてお尻を上げて5秒キープを10回。肘と膝で4本軸をつくりお腹を持ち上で5秒キープ5回。この運動は体幹を強くして姿勢や歩行能力を高めることにもつながります。

全身の運動になるスクワットという運動があります。体重の多い人がスクワットをすると、膝を痛めてしまうことがあります。みぞおち辺りにある上半身の重心と、太ももの中心にある下半身の重心を同じ位置にしてから立ちあることが大切です。

右上のバリーセンタースクワットAは、船を漕ぐように肘が膝よりも前方に位置するまで両腕を伸ばして同時に立ち上がり、立位では両肘を引き、続いて股関節、膝関節を曲げ、両腕を前方へ伸ばしながら、殿部(お尻)が椅子に触れたら3秒キープして、立ち上がり動作へと続く。(1セット5回からはじめ徐々に10回まで数を増やす)

右下のバリーセンタースクワットBは、椅子の後方30cm程に立ち、両肘を組み背もたれに置きスタート姿勢をとる。ゆっくりと5秒かけながら立ち上がり、立ち上がり姿勢では膝を完全に伸ばさす、つづけて5秒かけてゆっくりとスタート姿勢に戻り、3秒間キープして、立ち上がりと繰り返す。このスクワット運動は、スローで行うことがポイントで最大反復回数は5回までとする。数をこなす運動でなく筋肉の働きを感じながら行うことが効果的な運動となる。

動きやすい身体づくりができる「ストレッチング運動」:

ストレッチングは、筋肉が発揮する力のもととなる筋肉の長さを一定に戻す運動であり、特に動かない状態が続くと筋肉は縮み動きにくい状態へ変化してします。その筋肉の状態で動こうとすると関節痛などを引き起こす原因にもなる。また、血行は筋肉に囲まれている血管の状態によって悪化する。足元が冷えたり、浮腫んだりするのは、筋肉の縮みと血管の硬さも関係する。そのためストレッチングは「ちょこまか運動」の一つとして行うことにも重要な運動です。また、運動後は筋肉が強くなる分、縮み易くなってしまうので「しっかり運動」の後に行うと筋肉が強くなり柔軟性も加わりしなやかな身体づくりとなる。そして、もう一つ就寝前のストレッチングは良質の睡眠を導き、眠りについた90分後に分泌される成長ホルモンを発揮し易くし免疫力を高める。

ストレッチング実践ポイント
以下に示すストレッチングは反動をつけずに行なう静的ストレッチングです。
1. 1回ストレッチタイムは10~20秒間
2. ストレッチタイムでは、呼吸を止めないように数を声に出してかぞえる
3. 背を深く丸めたり、極端な動作は行なわず、伸ばしている筋肉が感じられるように行なう

①椅子に殿部を大腿部は座面から 離れる座る

②膝を伸ばし踵を床に着け、視線は前方に向け

③背を丸めず上体を前傾し

④足首を曲げ爪先を上方に向け

⑤下腿の背部、膝裏、大腿背部のストレッチング

 

①両手を膝内側と内くるぶしの上に置き

②視線を前方に向けて、背を曲げずに

③上体を前に倒し

④大腿外側から殿部外側を伸ばす

 

①椅子から一方の殿部と脚を外し他方の手は座面

②脚を後方に伸ばし、爪先を床に着ける

③上体をやや前傾し、踵を後方へ押し出し、

④股関節前方と大腿前面をストレッチングする

  

①椅子に深く座り、背を椅子背もたれに着け

②両手を組んで前方に伸ばして

③頭部を曲げ腹部を覗き込み

④胸背部をストレッチング

 

①両手を身体の側方で片から外回し

②両肩甲骨を中央内側に寄せて

③前方肩の付け根と胸部を伸ばす

  

①前足軽く膝を曲げ両手で姿勢を保ち

②後方に引いた足の踵を床に押付ける

③反動付けずにじっくり伸ばす

ストレッチングをするタイミングとしては、運動後の筋疲労の解消や、寝る前に行うことで良質な睡眠をとることができます。また、食後30分~60分にすると高血糖を抑制することができます。

このように、道具を使わずご自宅・勤務先でできるような「ちょこまか運動」、そして数分間でもいいのでしっかり歩いてマイオカインを刺激する「しっかり運動」、そして筋肉が動きやすい状態を作る「ストレッチング」の組み合わせで運動療法を行っていきましょう。

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