[7/27]第3回乾癬市民公開講座ハイライト-①

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7月27日に「乾癬とメタボリックシンドロームの関係」をテーマのもと、Webで参加する第3回乾癬市民公開講座を実施しました。前半の講演では、生活習慣と乾癬の要因について、筑波大学医学医療系皮膚科の渡辺先生にお話しいただきました。講演に参加できなかった方、講演の内容をもう一度振り返りたい方のために、講演のハイライトを記事でお届けします。
後半の講演「これならできる運動療法−動きたくなるココロと動けるカラダ−」のハイライトはこちらから。

左:司会 笹岡樹里さん 中央:筑波大学医学医療系 皮膚科 渡辺 玲先生  右:東京医科大学八王子医療センターの糖尿病・内分泌・代謝内科 運動療法担当 天川 淑宏 先生

「メタボは乾癬の大敵!? −あなたの日常生活、いかがですか?− 」
渡辺玲先生 筑波大学医学医療系 皮膚科

乾癬は生活習慣を見直すことで改善できる

患者さんから「乾癬になった原因はなんですか?」という質問をよくいただきます。乾癬は何か一つの原因で発症する疾患ではないことがわかっていますが、一方で、全ての原因が細かく解明されているわけではありません。ただ、遺伝的に「なりやすい素因」を持つ方に、生活習慣などの「後天的な要因」が加わって乾癬が発症してしまうのではないかと考えられています。今回の講演では、生活習慣などの後天的な要因を中心にお話したいと思います。

「後天的な要因」とは?

後天的な要因とはさまざまなものがありますが、大きく2つに分けると「自身で回避することが難しい要因」と「自身で回避することが出来る要因」があります。

「自身で回避することが難しい要因」の例:

  • 感染症
  • 薬剤から誘発される乾癬
  • 妊娠/出産などを機に発症する乾癬

「自身で回避することができる要因」の例:

  • 喫煙
  • 飲酒
  • 食事内容

これらの積み重ねが、肥満、高脂血症、糖尿病のような生活習慣病を招き、乾癬の発症や悪化にも影響していることがわかってきています。生活習慣を見直すことで、回避・改善していくことができます。

喫煙

喫煙と乾癬発症の関係を調べる研究はたくさん行われています。その中で、ハーバード大学から報告されている、喫煙と乾癬発症のリスクについてご紹介させていただきます。

まず、「乾癬発症に禁煙が関与する」という研究結果が出ています。

過去に喫煙歴がある方は、乾癬発症リスクが1.39倍。また現喫煙者の方は、発症リスクが1.94倍という数値が出ています。喫煙者の中でも、1日25本以上吸われるようなヘビースモーカーの方は、発症リスクが2.29倍。この数値から、たばこを吸えば吸うほど発症しやすいと考えられています。

一方で、喫煙を止めてからの期間が長いほど、発症のリスクが低下することもわかっています。ですから、今からでも喫煙をやめる価値はありますし、発症してしまった方でも、喫煙が悪化因子になっているかもしれませんので、喫煙を避けることが病気の状態を改善するのに役立つ可能性があります。

飲酒

次に、飲酒と乾癬発症との関係性についてお話します。ビール缶350mLを週に5本以上飲むと乾癬発症リスクが1.76倍に高まるという報告があります。例えば、1週間のうち休肝日を2日はさんで晩酌に1本ずつ缶ビールを飲む場合でも、条件を満たしてしまうことになります。

 

この報告では、乾癬発症リスクは、ビール以外のアルコール飲料を同じ量を摂取してもその結果に差は出ていません。一方で、アルコール1日30g以上と明らかに飲みすぎの場合に関節症性乾癬の発症リスクが4.45倍に高まるそうです。飲酒は一切ダメというわけではないのですが、ほどほどにしていただいたくことが大切です。

肥満

乾癬と肥満の関係性に関して、日本人からの研究結果が出ています。旭川医科大学の高橋英俊先生(現、旭川市 高木皮膚科)がまとめられたデータです。

肥満とされるBMI 25以上を超える割合は、乾癬患者さんで約40%、乾癬以外の皮膚疾患患者さんで約23%と数値に大きな差が見られます。また腹囲が90cmを超える男性、85cmを超える女性の割合も、乾癬患者さんで約34%、乾癬以外の皮膚疾患患者さんで約20%という結果が出ており、肥満と乾癬が密接に関係することがわかります。

乾癬とダイエット

先ほど紹介したデータではBMI 25という数値でしたが、世界的にはBMI 30になると乾癬を発症しやすくなる、またその治療効果が弱まるという結果が多く出ています。肥満と診断された方は、低カロリー食を取り入れたり、食事の制限をしたりすることによって体重を減少させることが発症予防にもなり、治療効果の増強につながります。実際の患者さんの例でも体重が100kgくらいあった方が75kgまで減量に成功し、乾癬の皮疹が見違えるように良くなったということがありました。

メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)

メタボリックシンドロームというのは、内臓脂肪症候群ともいわれており、腕や足はあまり太くないのに、写真のようにお腹が出ている肥満体型の方で、更に高血圧・高脂血症・糖尿病といった生活習慣病を2項目以上満たしている方はメタボリックシンドロームと診断されます。

内臓脂肪の蓄積をもととしてさまざまな生活習慣病が重なり合っている状態なので、ただ太っているというだけでなく、体全体の問題として認識しなければなりません。

過食、運動不足、遺伝的な素因、こういったバックグラウンドがある中で内臓脂肪型の肥満を生じてきますと、そこに高血圧・高脂血症・糖尿病などの疾患を発症しやすい母地ができてきます。この状態が続くと血管に負担がかかり、動脈硬化を生じやすくなります。それが心筋梗塞、脳梗塞といった血管の病変に結びついていくと考えられています。

乾癬にはメタボリックシンドロームの合併が多い

乾癬は、メタボリックシンドロームの合併が多く、年齢とメタボリックシンドローム患者さんの割合を図に表すと、各年齢層において乾癬患者さん(ピンクのバー)は、乾癬以外の患者さんと比べて、メタボリックシンドロームを持っている方が多いということがわかります。

また、下の表でも乾癬患者さんにおいてメタボリックシンドロームの方が27.4%、それに対して乾癬以外の患者さんでは16.2%、高血圧27.4%に対し14.9%、高脂血症では乾癬の方では34.3%の方にみられ、乾癬以外の患者さんでは16.2%、糖尿病の乾癬の方で20.6%、対照の方では9.1%と、このように2倍くらいの数値でメタボリックシンドロームの合併が多いことが分かります。

重傷乾癬では心筋梗塞リスクが高い

乾癬患者さんと対照の方で様々な疾患へのかかりやすさのリスクを比較してみると、「心血管系疾患」になるリスクが3.5倍となっています。「心筋梗塞」になるリスクは1.58倍、「脳卒中」は1.43倍にリスクが上がることが分かっています。これらはメタボリックシンドロームとの関係が深い疾患です。

また、乾癬の重症度によっても「心筋梗塞」といった血管系のリスクに差が出てくることも分かっています。こちらは、重症の乾癬の方と、比較的軽症から中等度の方に分類して心筋梗塞リスクを計ったグラフです。年齢別になっていますが、例えば30代の重症乾癬の患者さんは、心筋梗塞の相対リスクが3.1倍にもなると報告があります。若い世代からでも注意が必要です。

このようにメタボリックシンドロームは、内臓脂肪の蓄積をもととして肥満、太っているというだけでなく、様々な生活習慣病が重なり合い、いずれは血管障害を招き心臓や脳への障害を生じかねない状態と考えていただく必要があります。

乾癬の治療をする上で大切な意識

乾癬の治療ピラミッド計画は、ご存じの方も多いかと思います。乾癬の重症度に合わせて、治療をステップアップしていく必要があるということを表したものですが、ベースに「生活習慣」があることを意識することが大切です。生活習慣を改善させていくことで、乾癬治療の効果を高め、また低いレベルの治療でも期待するような効果を発揮できるように、環境を整えることが乾癬治療では重要になってきます。

治療に用いる薬剤=消火剤、生活習慣=油

乾癬の状態を、たき火に例えると、治療でさまざまな薬剤を用いることは消火剤をまいて火を消すという発想になります。それに対して、生活習慣、例えば飲酒、喫煙、肥満などの要素は火に油を注いでいたり、まきを入れたりしている状態になっています。従って、乾癬の皮膚症状という火を鎮火するためには、消火剤を増やしていくだけではなく、火が燃える原因となるものをできる限り取り除いていくことも非常に大切になってきます。両方の面から一緒に治療をしていくことが大切です。

この報告では、乾癬発症リスクは、ビール以外のアルコール飲料を同じ量を摂取してもその結果に差は出ていません。一方で、アルコール1日30g以上と明らかに飲みすぎの場合に関節症性乾癬の発症リスクが4.45倍に高まるそうです。飲酒は一切ダメというわけではないのですが、ほどほどにしていただいたくことが大切です。

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