続けることが治療の基本

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同じ目線でコミュニケーション

私が前任地である大阪から高知に赴任してきたのは10年前のことで、当地では病院までの交通手段が限られているため、ご高齢の患者さんにとって通院は一苦労だということや、乾癬歴30年、40年以上という方、治療を一度中断したけれど再び治療を開始した方など、治療歴の長い患者さんが多いということを実感しました。乾癬のように治療に長い期間を要する病気では、一度良くなったのに再燃したり、なかなか寛解に至らないこともあるため、継続して患者さんをフォローすることが重要になってきます。しかし、患者さんの中には治療は継続しているけれどあまり積極的でない、いわゆる治療疲れしている方が2割から3割ほどみられます。このような患者さんは、将来的に治療から離脱する可能性があることから、治療の場に留まっていただけるように工夫するのも医師の大切な務めであり、そのひとつの対処法として、私は患者さんと医師の良好なコミュニケーションづくりが重要だと思っています。人と人のつながりはみな同じかもしれませんが、患者さんと医師について もコミュニケーションが良好でないと、乾癬についての知識や日常生活における留意点をお話ししても、きちんと伝わらないことが多くなります。患者さんと医師は、指導を受ける、指導をするという立場になりがちですが、そのような関係では、本音で話し合える仲にはなりにくいと思います。共通の目標に向けて一緒に考え、少しでも良い治療ができるように、前向き思考で歩んでいく、そんな関係づくりが欠かせないでしょう。

情報共有の場であり患者さんを勇気づける

次に、患者さんが治療を継続していくための助けとなるのが患者会の活動です。当地では10年前に高知乾癬患者友の会「とさあいの会」が結成され、年2回の学習講演会を開くなど地道な活動を行ってきました。私たち高知大学も、新しい治療法の紹介や日常生活における留意点、また乾癬にまつわる情報を提供したり、患者さんの相談にお答えしたりするなど側面から患者会を支援しています。この会には、当院だけでなく県内外のさまざまな医療機関で治療している患者さんが集うため、ふだんなかなか会う機会のない人同士が交流を深める場として、また患者さん同士が情報交換する場としても貴重な存在となっています。乾癬が寛解した患者さんから、皆さんの前でご自身の経験についてお話しいただくこともあり、みなさんとても熱心に聞きいっています。ふだんは少し元気がない、治療疲れしている患者さんも会にご参加いただいていますが、出席することで気が和む方は多いようです。主治医のことやくすりのことについて話し、患者さん同士、思うところを話せるためなのでしょうか、会が終了する頃にはずいぶんと元気になっている方も少なくありません。さらに会の雰囲気になじんでくると、患者さん同士でお互いに腕をまくり上げ、皮膚の状態を比べたりする方も出てくるなど、会に参加することは、患者さんにとって有益なひと時となっていることがうかがえます。やはり心を閉ざすのではなく、患者さん一人ひとりが社会的につながっていくきっかけをつくる、そんな患者会の役割は大きいと感じています。

楽しみながら通院してもらうための工夫

患者さんと医師のコミュニケーションの向上や患者会の活用と同じように、患者さんが治療から遠ざかってしまうことを防ぐ方法として、病院に来ることを楽しく感じてもらえるような工夫が挙げられます。私の場合は、光線療法を活用することで、少しでも患者さんに治療の楽しみを感じてもらえるようにしています。たとえば週に1回でも2週に1回でも、光線療法を受けに来るように患者さんと約束します。私が診ている患者さんはご高齢の方が多く、一般的にご高齢の方は約束したことをよく守ってくださるので、何回か通院しているうちに、決められた曜日の光線療法が患者さんのライフワークとして定着していきます。こうなると、患者さんにとって光線療法は仕事と同じような位置づけとなり、繰り返すうちにやりがいとか楽しみにつながっていきます。皮膚の症状は改善し、通院しているうちに患者さん同士が友人にもなる光線療法は、治療の場を楽しみの場 に変えることのできる優れた方法だと思っています。中には通院が大変な患者さんもいますが、それでも受診の間隔を空け過ぎてしまうより、ある程度間隔を短くした方が、治療からの離脱を防ぎ、治療の場に留まっていただくという意味では有効だと考えます。

希望をつなぐ新しい乾癬治療

従来まで乾癬は治りにくい病気と いわれてきたため、治療歴の長い患者さんは、落胆し、がんばって治療しようという気持ちが薄れがちになったこともあるといいます。しかし、そのような乾癬の治療も、2010年に生物学的製剤が登場したことで大きく変わりました。 治療の選択肢が増えたことで、患者さんにさまざまな治療法を提示できるようになり、今では、患者さんに向かって「乾癬は治療がうまく行けば大変良くなります」とお話しできるようになりました。このような新しい治療法の登場は、患者さんの希望をつなぎ、前向きに変える力があるので、私は診察のときや講演を通して、患者さんに新しい治療法について、できるだけわかりやすく繰り返し説明をしています。 市民向けの講演を行った後は、「先生、新しいくすりがあるということですけど、それは私にも効きますか」とか「実際に治療をして良くなった人から聞いてきたのですが」など、乾癬治療について来院する患者さんの関心が一時的に高まります。 私としては、このような流れを一時的なものではなく、より恒久的なもの にしたいと考えていますし、治療への 関心が薄れてしまったり、治療を中 断してしまったりする患者さんを一人 でも減らすことができるように、さまざまな手段を用いて治療への参加意識向上を果たしていきたいと考えています。せっかく優れた治療法が開発されても、患者さんが治療の場にいなければ何もしないのと同じわけですから、コミュニケーションの向上、患者会の有効活用、通院を楽しくする工夫、新しい治療法の啓発を通して、患者さんの治療疲れを防いでいきたいと思っています。

高知大学医学部 皮膚科学講座 教授
佐野 栄紀先生

乾癬など炎症性皮膚疾患、遺伝性皮膚疾患、悪性腫瘍を中心に地域医療に貢献している。臨床応用にフィードバックさせるための基礎的 研究にも力を入れている。モットー「高知から世界に向けて新しい治療法を!」

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