患者さんのこころまでケアする時代へ

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東京逓信病院 副院長兼皮膚科部長
江藤 隆史 先生

変わりはじめた、乾癬という病気に対する考え方

「病気が他人の目に見える」、これは皮膚疾患の患者さん殆どが持つ悩みですが、その上、乾癬の場合は、病気自体が知られていないため、皮膚の表面に現れた様々な症状に対して理解されずに、患者さんは周囲の視線や誤解に苦しんでいるというのが、今も昔もずっと変わらない大きな問題だと思います。その一方で、乾癬の治療はこの10年で大きく変わり、塗り薬に加えて免疫抑制剤や生物学的製剤と呼ばれる新しい種類の薬が登場したことで、多くの乾癬患者さんが良い状態を維持することが可能になってきました。つまり、治療でコントロールできる病気へと変わってきたのです。これは医師と患者さんとの関係にも大きな変化をもたらしていると思います。治療法が限られていた頃は、医師が患者さんの要望ひとつひとつに耳を傾けるのが難しいというのが現実でした。しかし、患者さんの症状や生活スタイルに合わせて治療法を選択できる今は、患者さんが望んでいること、苦しんでいることを理解して、「治療をどうしていくか一緒に決めていこう」という流れが生まれているのです。例えば、音楽が好きで人前で演奏したい患者さんにとっては、爪だけにしか症状が出てなかったとしても、生活に大きな支障を来しています。そのため、単に見た目の症状の重い、軽いではなく、患者さんのQOL(生活の質)を高めるという視点で、治療が考えられるようになっているのです。ですから、患者さんは、「自分はどうなりたいか」その想いを伝えることを大切にして、医師と一緒に向き合って欲しいと思います。そして、患者さんが乾癬の症状をコントロールして、勇気を持って外の世界へ踏み出した時に、「理解してもらえない」という苦しみに出会うことのないように、乾癬に対する誤解や偏見の壁を取り払っていくための活動もますます重要になってくると感じています。

病気を考えるのではなく、その先の人生を一緒に考えていく

乾癬の患者さんを30年以上、治療してきて思うことは、乾癬の状態が良くなっていくにつれて人生そのものも変わっていくことの凄さです。肌の状態が悪かった頃は、自暴自棄になって将来も考えられないと家の中に引きこもっていた若者が、乾癬の症状が良くなってくると、心が安定し、さらに自分にも自信が持てるようになっていくのです。そして、進学、就職という階段を上り、人間として、成長していく姿を見ていると、皮膚にできた発疹だけを診るのではなく、人生までも含めたトータルで患者さんと共に育んでいくことの重要性を再認識します。私はいつも患者さんに「乾癬は完全に消せなくても良い、そのくらいの気持ちで一緒に治療をしていきませんか」と話しています。患者さんの中にある「乾癬があるからこれができない」という囚われを少しでも軽くして、やりたいことをやり、今の生活の中にそれぞれの楽しみを見出せるようにしたいからです。やはり気持ちが前向きになってくると、患者さんの治療への考え方も前向きになり、良いサイクルができてくると感じています。

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